藤沼 哲 木彫展 2008-2013 の 仕事
Biomimetic Expression

自然の中にある「不思議で美しい形の法則」

2013年3月16日(土)~3月24日(日)
休廊 3/21(木)
13:00~19:00

動画サイトYouTubeに「藤沼哲 木彫展 2008-2013の仕事」のギャラリートークムービーをアップしました。 →1→2
動画サイトYouTubeに、藤沼哲がレジデンスプログラムに参加した際の映像がアップされています。




■このたび、木彫作家の藤沼哲を迎えて展覧会を開催する運びとなりました。
アートフェアULTRAなどでのスポット的な参加によって、作品を扱う機会はありましたが、Gallery花影抄での個展開催は初めてです。

「触れることで呼び起こされるもの」

藤沼の作品は、抽象彫刻のようでありながら、具象的な印象もあるユニークなものです。
海や森で発見する「何か」のような造形で、どこかで体感したことがあるような、無いような、観る者は記憶を辿りながら作品と対峙することになります。藤沼は、触覚も作品の重要な要素と考えており、展示会場では実際に手に取って、鑑賞することができます。そこで得られるのは、とても生々しくリアル体験です。

藤沼の木彫作品を見る鑑賞者の中には、宮崎駿の作品「風の谷のナウシカ」に描かれている『腐海』と呼ばれる汚染された未来の架空の森を想起するという人も多くありますが、作家自身はこの宮崎作品を知らないと言い、自らの彫刻作品について特定した何かを再現しているのではなく、個々の作品には題名・タイトルもつけられていません。そういった意味では特別にメッセージを込めてもいないと言います。作品の見方は受け手に委ねられた状態です。観る者によっては必ずしも、美しさや心地良さではなく、気持ちの悪さといった印象を受ける場合もあります。触れた時に生理的に感じる言葉にしづらい感覚を「『腐海』に落ちていそうな」と表現するのではないでしょうか。

普段、都会で生活する現代人の心の奥底に眠りがちな、自然の中のモノと出会った時に感じる生理的な感覚、快感や不快感、驚き、喜び、あるいは嫌悪感である場合もあるかもしれませんが、その生な神経・感覚を刺激し、呼び起こして疑似体験をさせてくれるのが、藤沼作品の魅力です。

厳しさを増す現代の自然環境に身を置く私たちは、不思議な生命体としてエネルギーを秘めているかのような、これらの木彫作品から、無意識に自然界における何らかの意味や法則、啓示のようなものを読み取ろうとするのかもしれません。

今回の展示では、作家が制作のキーワードに「バイオミメティック」(生体模倣)という言葉を意識するようになったという、2008年から2013年までに制作された作品の中から、作家自身が30点あまりを選び展示します。

(Gallery花影抄:橋本達士)



□作家の言葉 藤沼哲

「私の心を動かすもの」
私は自然に非常に高い関心があります。
幼少の頃から自然の中で遊び自然に親しんできました。
虫取り、釣り、キャンプ、野山をかけずり回り泥だらけになっていました。
捕まえてきた虫や魚は可能な限り飼育していました。
読書は、文学作品では無く図鑑を観るのが好きでした。
大学では環境科学を専攻し、雨水の化学成分を分析して大気中の汚染物質の動向を研究しました。
卒業後、化学のスキルを生かしセラミックスのエンジニアとして企業で働きました。
結婚後、旅行好きな家内と共に自然豊かな海外(ニュージーランド、アメリカ、カナダ)のナショナルパークを訪問しました。

自然の中にいると「気分が良い」「美しい景色、動植物に感動する」等はもちろんですが、
「なんだ!これは?」「どうして?」と思う瞬間にとても心が動かされます。
それは未知の物を発見した喜びや、知的欲求を刺激される事だと思います。
これらの快感を得るため、なにか新しい物を求めて自然の中をきょろきょろしながら彷徨っているのでしょう。

「私が表現する自然」
私は自然の中で 視覚、聴覚、嗅覚 を総動員してあらゆる気配に心を向けます、
すると「変わった物」を発見します。
「変わったもの」は美しい物とは限りません、しばしば醜い、気持ち悪い物であったりします。
しかし私にとっては「なんだ!これは?」「どうして?」という感情を持たせる重要な物です。
私はこの「なんだ!これは?」「どうして?」を作品として表現したいと考えています。

自然はあるパターン、規則性を持っています。(構造、模様 etc )
しかし、それは定規できっちり測ったような物ではなく、ある曖昧さ、揺らぎを持っています。
その曖昧なところ、揺らぎに美しさを感じています。
私は自然の中で特に動植物に関心を持ち、しばしばとてもクローズアップして観察します。
そこにとても面白い形、パターンを発見します。
こうした「記憶の断片」を再構築した物が、私の作品です。
私はこの事を生体模倣(バイオミメティック)と表現しています。
今の作品には大学、エンジニア時代の「物を観察し、考察、実験して確かめる」科学者としての経験も生かされていると思っています。

「私にとっての木工旋盤(ウッドターニング)」
回転運動は身の回りにあふれています、天体(惑星の動き)、車輪、ギヤ、歯車、DNAの二重螺旋構造、貝などの成長プロセス etc.
回転運動は、私にとって自然そのもの、途切れなく続くものの象徴です。
旋盤は、その回転運動によって「際限ある自己の能力」を超越し、自然の摂理ともいうべき「有機的なかたち」を導きだしてくれる重要なプロセスです。
そうして出来たフォルムに、私のバイオミメティックな再構築をカービング、パイログラフィック(バーニング)等で表現します。

「作品を通じて感じてほしい事」
私が、自然の中で感じる喜び、驚き、「なんだ!これは?」「どうして?」と同じような感覚を感じてほしい。
私が作る物は、自然の中に同じ物はありません、しかし「どこかにありそうな、いそうな」「どこかで見たかも」と言う感覚を持ち、同時に面白いと思ってもらえたら嬉しいです。
抽象作品を作っていますが「写実感」も持たせたいと思っています。
それは現実には何処にも存在しない物をあたかも存在するかのように感じていただく事です。

私は、人々には作品を手に取ってあらゆる方向から観察して欲しいと思っています。
私が森の中でそうするように。