木の素材、木彫について

紫苑 [SHION]

木彫根付は、入口は入りやすいと思います。牙彫のように左刃という特殊な刃物は必要とせず、市販の彫刻刀…現在は1㎜の丸や三角刀、印刀…なかには0.5㎜の丸や三角刀まで市販されているので、左刃のように自分で刃物を製作せずとも始められるからです。
単純な形のものから始めて、やがて自分の根付というものが作れるように誰でもできます。
ただ、その奥は広大で一生かかっても突き詰められそうにはないのです……

大眞 [DAISHIN]

無量無数のご縁により、拙僧の作品をご覧いただく皆々様に、心より感謝申し上げます。
去る2025年5月26日、私の師である根付師・中川忠峰先生がご逝去なさいました。
振り返れば、先生には実にさまざまなことを教えていただきました。
先生より賜った伊勢根付の魂を、今後も私なりに研鑽し、作品に込めてまいります。

木彫の表現は誠に幅広く、一木から無限の姿が立ち現れます。
作者の積み重ねてきた経験と、そこに注ぎ込む心が、木と響き合い、作品として結実するのです。
また、木彫根付は単なる木彫ではありません。
掌の中で小さな宇宙のように、広く深く果てしない可能性を秘めた世界を私たちに見せてくれます。
何より、木彫根付を掌に包み込んだ瞬間、手にした者と一体となるその感覚は、これまでも多くの人々を魅了してきました。
木彫作品は育ちます。長く使用した木彫の色艶は人のはからいを超えた美しさを備えます。眼前の木彫根付たちは今後、より根付としての魅力を増していく事でしょう。是非身近でお楽しみください。

宙丸 [CHŪMARU]

はじめまして、宙丸(ちゅうまる)と申します。
この雅号は、以前漫画家をしていたときのペンネームで、デビュー作の主役である宇宙港の丸い犬型ロボットが由来です。根付は手の中の宇宙などと称され、丸みを帯びた形が基本なので、まるで根付師の道に進むことを予知していたかのような名前だと我ながら驚いています。
かつての私にとって、漫画家の仕事は生きる喜びであり目的でした。しかし、10年の間に所属した漫画雑誌は出版不況で次々と休刊、ついにはもう辞めどきと腹をくくり引退しました。このまま人生が終わってしまうのかと悶々とする日々。そんなある日、ふと自分でデザインしたキャラクターを立体造形してみたいと思い立ちました。2023年の暮れのことです。
あれこれ考えた末に木彫根付に挑戦しようと決めましたが、木材や彫刻刀にはいろいろ種類があり、何をどう選べばよいのか、あまりに未知の世界を前に早々に途方にくれました。しかしちょうどその頃、木材や彫刻刀、木工関連の書籍、そして機材を提供してくださる方に出会い、扉は一気に開きました。おかげで満を持して木彫根付の世界に一歩踏み出し、伊勢根付で有名な中川忠峰先生に指導をあおぎました。そして様々なご縁に恵まれて、本格的に根付師の道に進むことになったのです。まだまだ駆け出しですが、木彫根付の世界で生きる喜びを再び感じることができてとても嬉しいです。
 この道に導いてくださった忠峰先生は今年の五月に亡くなられました。出会いから別れまで1年半たらずという短い期間でしたが、根付のことを惜しみなく何でも教えてくださった先生に、この場を借りて感謝申し上げます。

利歩 [RIFU]

木彫では主に黄楊材を使用していますが、手に持ったときや彫刻刀で削るときの心地よい感触を楽しみながら制作しています。
木には、人の心をほっと和ませるような力があると感じていますので、木の根付に触れながら、穏やかな気持ちになっていただけたら嬉しいです。

永島信也 [NAGASHIMA Shin'ya]

初めて木を彫ることを覚えて以来、独自の方法で木彫を続けてきました。リューターと呼ばれる電動工具でその制作のほぼ全てを行う作家はそう多くないと思います。
自分にとって一番心地良く、最もイメージを形にしやすい制作法が今のスタイルだっただけの話ではありますが、そこに独自性もあるかなと考えております。

今回は新しい素材としてスタビライズドウッドに挑戦してみました。木の種類にもよりますが個人的にとても彫りやすく色の幅も広がるので今後も面白い作品が作れそうです。
もう一つは眠り猩々という古典のモチーフを。お手本の作品はありますが、自分らしさもきちんと出せるように顔の造形にはこだわりました。このような作品も今後改めて作っていけたらと考えています。

百々 [MOMO]

木を彫ることは、歴史を彫ることだと思います。
現在見えている表面を彫り進め、中心に行けば行くほど、何十年何百年も前の空気や景色が現れるからです。
素材となっても、生きた痕跡が凝縮された木目からは、自然の雄大さや尊さを感じます。
また作品となった後も、環境によって色合いや表面の風合いが変化していくのも木の魅力だと思います。

関根蕪 [SEKINE Kabu]

今回出品しました木彫根付の材には薩摩黄楊を用いました。
黄楊は朝熊黄楊と御蔵島産黄楊を使った事がありますが、現在、朝熊黄楊はなかなか手に入りにくい貴重な材料。
御蔵島産の黄楊は年輪の模様が目立つのでそれを活かせる図案なら良いのですがそうじゃない場合もあるということで探しまして、薩摩黄楊に辿り着きました。
薩摩黄楊は櫛に使ったりする材だそうでかなり硬かったですが粘りもあり細かい細工に向くので新しい根付の材としてこれからの木彫根付に活用できそうです。
私はもともとジュエリーが専門だったのですが銀や銅、真鍮、金などにヤスリをかけたときの感触の違いが面白く、根付でも特に木彫はそれぞれ彫り味の違いが面白かったりします。
高尾森林ふれあい推進センターというところに行ってみたことがあるのですが、木材がずらっと並んでいて木を持ってそれぞれの重量の違いを確かめられるというコーナーで軽い重いのかなりの違いに結構びっくりしたのを覚えています。
根付は手に持って楽しむ事のできる伝統工芸ですので、ぜひ、重さ軽さ、仕上げによる質感の違いなど感触も楽しんでいただけたらと思います。

狛 [KOMA]

彫刻を制作し始めた頃から根付に携わるようになった今も長らく木材を使い続けております。
その手に馴染む柔らかな質感と刻んだ形に沿って浮かび上がる木目がまさに肌と脈のようで、作品に命を宿らせてくれるような魔力を持った素材です。
木のエネルギーを損なわないよう、化粧を施すように彫り跡を刻んでいくことに努めています。

長久保華子 [NAGAKUBO Hanako]

私が木彫を選んだのは、大学で漆芸を専攻していたことがきっかけです。
「立体造形をするなら漆と相性の良い木彫が良いだろう」と感じたからでした。
木は同じ種類でも木目や硬さがひとつひとつ異なり、毎回新鮮な気持ちで向き合えるところに惹かれています。

孺禾 [JUKA]

初めて木彫根付の展覧会に参加します。黒檀を用いての根付制作は、私にとって大きな挑戦でした。素材の性質について調べ、彫り方を調整しながら、少しずつ形にしました。
題材は、黒檀の色合いからヒントを得て「黒鳥」と「馬」を選びました。普段は鹿角を染めているのですが、木材の色味がそのまま彫る動物の色味に調和し、自分の表現したいものができるというのは興味深い体験でした。
また、個々の動物のもつ特性にも注目しました。
「未来」……黒鳥が雛を背に乗せ育てるという温かな姿、このような行動は鳥類の中でも非常に珍しく、私に深い感動を与えました。雛の健やかな成長と未来への希望を込めています。
「馬踏飛燕」……中国東漢時代から伝わる著名な青銅器をモチーフにしています。根付という形を通じて、古代の芸術思想を表現したいと考えました。
まだ沢山の課題があり、歩むべき道も長いですが、この展覧会を通して一人でも多くの方に作品を楽しんでいただければ幸いです。

齋藤美洲 [SAITŌ Bishū]

木彫と牙彫

在銘根付の初期から、周山達の木彫、友忠や正直達の牙彫、両者は根付の芸術性や技法を競い合い現代まで続いている。

初めは、牙彫は素材の特性を以って木彫では難しい細密表現を可能にした。
木彫師も、牙彫作品を乗り越えるべく切磋琢磨する。
両者が己が素材の良き面を生かそうと努力してきたのは、根付の歴史の面白みの一つだろう。

牙彫出身の私には、木彫の硬さには難は無いが、年輪・木口・木端による硬軟のため思う様に小刀を運べない事に苦労。
木彫師に聞くと、牙材の硬さゆえに、造形と小刀作業の力と手指の疲れに苦労と言う。
修業の違いから来るものだが、牙彫名人の懐玉斎、石川光明の木彫をみれば、ただただ修行、努力の文字しかない。

木、牙材どちらも同じ根付彫刻。故に同じ作業が必須とされる。
根付は使用されて“ナレ”といわれる摩耗が生じても、作品価値が損なわれないようにするために細部までの磨きが重要である。磨きが完璧であれば、摩耗した部分と、しない部分とに美しいグラデーションが生まれる。茶道でいう“景色”と“趣”がみえる。

木彫根付の良き特徴は、観る人に、柔らかさ、温かさ、ふくよかさを感じさせる。
牙材の持つ硬さ、冷たさとは対照的な個性といえる。
同じ意匠で両材を創ったときに、木彫の方が、より深みのある存在を感じる。