アニメーションANIMA

今回の展示は、アニメーション作品と石彫作品を共に制作していくという自身初の試みです。以前から石彫とアニメーションは、両極にあると共にその過程に共通項があると感じていました。石彫は足を運んで頂かないと見せることができない、重たいメディアと言えるでしょう。一方アニメーションは、動画として一度に多くの方に届けられる軽やかさがあります。しかし両者ともその制作過程は軽いものではなく、多くの積み重ねを要する作業が不可欠です。そこには何重もの時が静かに佇んでいるのです。
 結果 が求められる中で、私は制作の日々という 過程 に大いに救われてきました。今回個展に向けて制作を開始したのも、多くの手数を要する制作をよりどころにしたかったという動機が根幹にあります。

2017年の夏、母が倒れ、信じていた存在や日常は一転しました。作家として歩き出した矢先のまさに青天の霹靂でした。
手術をし一命を取りとめましたが、厳しい状態であることを医者から告げられ、目に映る母の姿は半透明。愛する人の死を意識させられることの恐ろしさは、耐えられるものではありませんでした。しかし、母はそんな現実すらも日常に変えていく力強さで、治療をしながら家族を精神的に支えてくれました。「今日」を大切に重ねる、命がけの態度を見せてもらいました。母の頑張って作り上げた日常について行くこと、私自身も「あるべき日常」を過ごすこと。それは制作をして生き、闘病に寄り添い、母との時間も楽しく過ごすという事でした。
2020年3月、母の容体は一気に悪化し入院。都内の実家を制作の拠点とすることを余儀なくされました。今まで母の入院の際は毎日見舞いに行けたのに面会制限でそれすらもできない中、アニメの原画を書き溜める事で哀しさの時を素敵な日々に変えていきました。
容体は日に日に悪化し、まるで一枚一枚纏うものを手放していくようで、1週間が15年分を早送りしたような状況についていけず、日々を受け入れられませんでした。しかし、母を元気付けたく母が大切に育てていたクレマチスの花を一輪摘んで、面会に行きました。意思疎通も難しい母でしたが、クレマチスの深い青を感じた瞬間、「あ」と目を丸く輝かせて、手を差し出してきたのでした。私はその出来事を目に焼き付けました。
食べれなくなる 自分で動けなくなる 話せなくなる 
それでも美しいものを見て喜びを感じることができる
極限状態の1人の人間が見せた、真実でした。
母のあの日の姿は、作家として生きる私にとって母からの最期のプレゼントだと感じ受け取りました。衣食住から外れる芸術分野は淘汰されやすいのがこの国の現状ですが、最後まで残る感性という部分に注げる希望として、藝術は不可欠なものであると再認識しました。私は目で見たこと、感じた事を正面から受け止めて、苦しい気持ちも、悲しい出来事も全部幸せに変えていきたい。その過程でこれからも作品が生まれていくのだと強く感じました。
母は、沢山の暖かな経験を最期の最期まで私達に与え続け、家族の輪の中で穏やかに人生を終えました。
母亡き日々の中、失った純粋な喪失感、しっかり見送れた達成感等、様々な気持ちで混沌とした精神状態でしたがやはり、制作している時は本当に幸せなのです。そしてそれは、母が私にくれた、生きる力なのです。

アニメーション作品 ANIMA は1分程の短い作品ではありますが、フルアニメーションで原画枚数は700枚を超えるものとなりました。生まれてくる無垢な力と命の終わりゆくシンプルな力は実はとても近くにあり、互いに拮抗しえるものです。それをテーマに制作しました。石彫とアニメーションの共通項と両極性を可視化するという試みでもあります。
作品に合わせ作曲し、ピアノはピアニストの山田磨依さんに弾いて頂きました。
母がくれたこの3年は確実に自身にとっての大きな経験です。今振り返っても、闘病する母との日々は、とてもキラキラしていました。
その経験によって生まれた ANIMA は、大切な自分の布石となるものです。
皆、薄いガラスでできた砂時計の中生きています。そんな危うさがあるから美しい日々を作ろうとする力が働く。それが私の原動力。これからも愛する人の為に、表現を捧げ続けます。またここからを新たなスタートに、これからも皆様に作品を見せ続けて行きたいです。

佐野藍

店主ご挨拶

このたび、Gallery花影抄では、佐野藍の個展を開催いたします。
自然や命と向き合う中で、古来から人間は祈ったり、描いたり、形作ったりしてきたと思います。
佐野藍さんも、この数年の間に、切実で身近な問題として「命」と向き合う経験をしてきました。そこで表現をすることは、祈ることと同じだったのではないか、とも思えます。
彫刻であるとか、絵であるとか、そういうジャンルを越えた境地で生み出された今回の表現を是非、体感していただきたいです。作家の新しい表現の可能性に期待しています。

Gallery花影抄 橋本 達士

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