藤井安剛 根付展

2018年11月17日(土)~25日(日)※19日休廊

13:00~19:00(最終日は~18:00)



■作家のことば

 こんなアイデアが立体として存在したらおもしろいんじゃないか、とか、こんな組み合わせは今までなかったぞ、などという事を考えながら根付作品をつくりためてきました。

 ある程度まとまった数の作品を一度に提示する事で、自分を取り巻く状況が少しは良い方に変わるんじゃないかと思いまして、ギャラリー花影抄さんで個展をやらせていただく運びとなりました。

 作品全体に通ずる統一したテーマは設けませんでしたが、同じ制作者の手による近い時期の作品群には、自然と雰囲気が似通ってくるものだと考えます。それが個展の統一されたカラーであり、ギャラリーに御来店いただいたお客様には、後々、思い出していただく時に役立つものだと信じております。

 今に残る古い時代の根付には、人が心落ち着く居心地の良いカタチや色合い、風味等の本質が残されています。そこを一番の柱として、更に少しづつの現代モノならではのアイデアを加えていく。それにより、はじめて現代の根付作品が生まれてくるのです。

 私自身が根付制作にあたって常に考えている事は、作品になるべく人工物を取り入れるという事と、葉っぱ一枚でもいいのでできれば植物を組み込む事の2点です。前者は、それによって、その作品の扱う世界の時代や場所が分かり、ストーリー性が出てきて「文化」が生じる、という事です。後者は、見る人の心をなごませてくれるという利点があります。

 又、私のつくる根付には、従来の根付のジャンル分けでは説明できないものも含まれています。柳左根付と形彫り根付の中間ともいえるようなものだったり、饅頭根付に立体的な要素を加えたりと、これらの根付は、既存の種類同士を組み合わせたようなものと言えるかもしれません。題材やアイデアについても同じ事が言えます。ゼロから何か新しいものを生み出すのではなく、既存のモノ同士の組み合わせ、その試行錯誤によって、今までに無かったような根付作品をつくっていきたいと、常日頃思っています。

 今回の展示でも、この考え方から生まれ出た根付作品が並んでいる予定です。
 小さな作品世界ではありますが、ぜひ覗いてみていただければと思います。

藤井安剛


■ギャラリーより

 藤井安剛という作家の凄さは、半ば直感的試行錯誤だけで、題材と技法両方において、古(ルビ・いにしえ)の時間と記憶を外部として客体化して抽出(ルビ・サンプリング)、オリジナルの世界観を再構築(ルビ・リミックス)する方法に到達している点だ。これはすでにファインアートを飛び越えた、現代アート(ルビ・アナロジー)寄りのアプローチだ。

 彼が目指す世界観は、「人が心落ち着く居心地の良いカタチや色合い、風味等の本質」であり、その本質は「現代のモノならではのアイディアを加え」ること無しでは、リアリティを獲得できない性質のものと言えるだろう。

 自然、安剛作品は現代社会に暮らす我々の繊細な心を写す鏡になっており、彼の彫り出す作品の味わい深い豊饒な情緒と不思議に身近な詩情は、50年100年経ても紛れもなく私たちの時代の象徴としての耀きを放つ根付として残ることになるだろう。