金井麻央展「翳に紡ぐ」

2016/10/22(土)~30(日)
※24(月)休廊
13:00〜19:00(最終日は18:00迄)




この度 漆芸作家 金井麻央の初個展をGallery花影抄で開催いたします。

金井は2015年、東京藝術大学大学院 美術研究科 漆芸専攻 を卒業。
修了制作展では蒔絵の技術に加え、
生き生きと愛らしい白孔雀の彫刻を合わせた作品でひときわ注目を集めました。

在学中は確かな技術を学び、昨年より作家としてスタートした新鋭です。
蒔絵の技法に真摯に取り組みつつ、華を添えるのは彫刻の動物。
立体造形の彫刻の技術、センスも持つ稀有な作家です。
目に力がありながら、観る者の心を解かすような動物の表現力は、
獣医を志したこともあるという、作家ならではと思います。
畏敬の念を持ち、モチーフに向かいたいという作家の気持ちも大切にしたい、
これからとても楽しみな作家です。

今回の展示のテーマは「光と文様」。
昨年修了制作の際に制作した白孔雀の箱をきっかけに、興味を持ったという、
天平時代の正倉院文様を掘り下げ、日々生きる中で見る色々な光(月の光、星の光…など)を
文様という形で漆芸で表現し、また特徴でもある彫刻の技術も組み合わせた作品が並びます。
ぜひ足をお運び頂きまして、作家とも交流して頂ければ大変幸いです。

< 作家の言葉  金井麻央 >

この度、初個展をさせて頂くにあたりテーマとしたのは、「光と文様」です。
まず、〝光〟についてですが、これは私が生きている日々の中で美しいと感じ魅かれる、自然の中にある光です。
太陽の光、月の光、星の光、夕陽に照らされ水面に浮かび上がる光の道。光を浴びて目覚める生き物の姿。
そして、自然の光を目にしたときの人の想い。そのような光を文様という形で、漆芸により表現しました。

〝文様〟と一言で表すには意味が広すぎるテーマではありますが、これまでの人類の歴史の中で生み出された文様から私が感じるものは、人々の想いや祈り、そして想像力です。

人類の歴史の中で、文様というものは人間の生活の中で必然的に生まれてきたものであり、人のくらしと深い繋がりがあったと考えられます。例えば、華麗に緻密に反転や繰り返しを続け、無限の広がりとなり空間を埋め尽くす、 イスラム文様は果てしなく永遠なものであり、人々の信仰に繋がっていったのではないかと思われます。

受け継がれてきた様々な形の文様がある中で、とりわけ私が興味深かったのは、天平時代の文様でした。それは、修了作品「白孔雀」の制作がきっかけでした。天平時代といえば、代表されるのが正倉院文様です。
西洋的なものが中国において東洋的なものと融合して生まれ、それが海を渡り日本へと渡来したのが正倉院宝物です。それらの宝物には、実在するもの、空想的なものまで、多種多様な動植物がおおらかに、生き生きと、ときにユーモラスに描かれています。千年の時を超える宝物から、当時の作家、職人たちの想像力がうかがえます。

「孔雀」というモチーフひとつとってもその形は様々であり、人との深い歴史があります。インドを3000年前に発した孔雀。シルクロードという名の東西文化交流の道の上を美しい鳥は運ばれ、東方の日本にもたらされたのは、  インドを発してから1600年ばかり後のことです。ペルシャでは死者の魂を運ぶ鳥として、エジプトでは不滅の象徴であり、古代中国では楊貴妃の髪飾りとして登場し・・・。大陸何万キロ、数千年にわたる巨大な時空を舞う華麗な鳥の姿、その広大な時空にわたって展開する人々の情熱や想念。そして、たったひとつの生物に対する人間とのかかわりの深さ。想像するだけでロマンを感じます。

現代のように、動物園に行けば異国の動物を目にすることができ、他国も自由に移動できるような時代ではなかったからこそ、見たこともない動物たちは人々にとって神秘的であり、想像力を掻き立てたのかもしれません。
人が目にする世界が数千年という時の中でどんなに変わったとしても、自然の美に触れたときの感覚や、日の光を眺めて誰かを想い、何かを願ったりするような光景は、不変的なものではないかとも思います。

様々な文様が長い年月をかけて受け継がれ、人を惹きつけるのは、そういった人の自然に対する想いや願いが込められているからではないかと思います。

 漆芸という表現方法で、私が感じ、思い描く光と文様をご覧頂ければと思います。