齋藤美洲 根付彫刻展

2008年11月22日(土)~30日(日)

ご挨拶

 この度、Gallery 花影抄では、現代根付彫刻師 齋藤美洲による、根付彫刻展を開催させて頂く運びとなりました。長い作家活動暦のある美洲ですが、今回の展覧会が、作家にとっての初めての個展開催です。
 根付制作に使われる素材は、象牙と黄楊が代表的なものです。この二つが彫刻にもっとも適した材料であるからです。そんなことが背景にある中で、今回の美洲の作品展は、鹿角の素材などを中心に、鯨の歯や、様々な素材の根付彫刻作品が並びます。特にメインで使われているのは、鹿角の素材です。鹿角は、立体彫刻を作るには、形の制約が多いため、作り手の造形センスが問われます。美洲は、制約の多い素材の形の中に、自身の造形を見い出す才能に溢れています。作家は、作品の造形に関して、「まず美しい抽象的フォルムを素材の特性を用いて作り出し、その中にあらためて、具象的なモチーフを見い出して彫刻する」と言います。通常の抽象作品が、モチーフから具象的なものを削っていくことで、抽象的な形体を探っていくのに対して、逆の方法で形の探求をしているとも言えます。
 また、根付芸術の楽しみの大事な要素に、触覚というものがあり、今回、敢えて象牙以外の素材を用いた作品を主に選んで展示することで、その特性を際立たせる意図もあります。
 素材の質と形にこだわった根付彫刻、二十点あまりが並びます。

作家の言葉

根付彫刻を志して五十年を経ようとする。
 早、初冬ですが、未だ春草の夢を消しさる事が出来得ず、桐の葉もまだ青いと思い込んでいます。
 谷中と云う土地に生まれ育ち、父の蔵書、作品等より古典を意識することなく身に付けて育ちました。戦後の美術界が、具象より抽象へ変化していった頃、美術を学び始め、様々な変動の中において、理解も出来ました。仕事を志した時、置物よりも根付を選んだのは、西洋の理論と根付の基本的な一致があったからで、以来、私の基になっています。只、根付師として自分に不満であったのは、西洋写実を学んだ為に起きる具象へのこだわりで、日本の感性を持った作品に近づく困難さでした。
 最近ようやくに、その姿が手に届きそうなところに有ると思うようになりました。だが、それはすぐそばにある気はするが、なかなか掴みきれない。只、外界に求めるのではなく、自分自身の中に入り込んでこそ、掴み得るものが有るのではないかと思える。
 ある陶芸家の言った、「人は自分を知る為に生まれ 人は自分を見る為に仕事をする」この言葉の意味を噛みしめる時なのかもしれない。
 見る人の言葉を聞きながら、自分自身を観てみたいと思っています。